恐らくOpenWrt全体で見ても初となると思われるPanasonic機。
自分の中ではAML2-17GPから始まったスイッチングハブ向けRealtek SoCにおけるOpenWrtの利用について、他に該当するデバイスが無いかあちらこちらをひっくり返した際に見つけ、強く興味を惹かれた機種です。
マージされたものの、色々あった関係で記事を後回しにしていたら忘れかけていました。
まとめていきます。
仕様
これまでマージされたAML2-17GP、BSH-G24MBよりも少ない8ポート(+SFP 1ポート)の機種です。それ故にSoCも前述の2機種と異なるRTL8380Mを搭載。
- SoC: RTL8380M (500MHz)
- RAM: DDR3 128MiB
- Flash: SPI-NOR 32MiB
- Ethernet: TP → 1000Mbps x8, SFP → 1000Mbps x1
- RS-232C: 9600bps(RJ45, 所謂Ciscoケーブル互換)
その他詳細については、雑記を参照。
OpenWrt化
だいぶ複雑で長い手順を執る必要がある為、ここには掲載しません。コミット内に記載されている手順を参照してください。
realtek: add support for Panasonic Switch-M8eG PN28080K · openwrt/openwrt@e83ab24
備考
Switch-M8eGには旧モデルである "PN28080" が存在するが、そちらはPN28080Kと異なりBroadcomベースのハードウェアであり、今回のサポートと互換は無く、今後OpenWrtにおいてサポートされることも無い。
PN28080は筐体フロント部分が本体と同色の緑で塗装されており、一方でPN28080Kはフロント部分のみ黒色に塗装されているため、そこで見分けることが可能。フロント正面左側にある "LED DISPLAY" ボタンは、特段の機能を割り当てていない。その為、押しても再起動や設定の初期化は行えない。シリアルコンソールは表に直接出ているので、そちらからコマンドで実施などする。
なお、 "LED DISPLAY" ボタンはブート時にfailsafeに入る為に使用することは可能。SFPポートにおいては、NTT等の小型ONUは恐らく使用できない。
NTTによって公開されている小型ONUの 仕様書 を参照すると、以下の通りの仕様となっていることが読み取れる。
(DDMについては仕様書内に記載が無い為、外部Wiki を参照)- DDM:
00
- Options:
0200
- SFF-8472 Compliance:
00
上記から、小型ONUは
であることがわかる。
Linux Kernelにおいては、SFPポートにおけるデフォルトの電源供給能力は1,000mWに設定されており、これを超える電力 (Power Level) を要求するSFPモジュールが挿入された際、- SFPモジュールがSFF-8472コンプライアンス情報を提供しているかDDMをサポートしている → 1,000mWまでの供給に制限してモジュールを動作する
- SFPモジュールがSFF-8472コンプライアンス情報を提供せずDDMもサポートしない → 完全に非対応モジュールとして扱い認識を失敗させ使用不可とする
という挙動をする。(ここ)
Panasonic Switch-M8eG PN28080Kについては、SFPポートにおける仕様上の最大供給電力についての情報が得られておらず、デフォルトの1,000mWから供給能力設定を引き上げられていない。
そのことから、前述の通り小型ONUの要求電力が1,500mWでSwitch-M8eG側の供給能力1,000mWを超過し、なおかつ小型ONU側がSFF-8472コンプライアンス情報もDDMも提供しない為、Linux Kernelにおいては完全に非対応のモジュールとして扱われ、使用不可となることが予想される。
なお、DeviceTreeに変更を加えて動作させることは恐らく可能であるものの、設計上の電力供給能力がもし不足する場合は電子回路に過負荷を掛ける恐れがあることから、あまり推奨しない。故障等を引き起こす可能性を認識した上で、完全に自己責任として行うこと。- DDM:
SFPモジュールは、現状Cisco GLC-SX-MMと10GtekのGLC-SX-MMD互換モジュールが動作することを手元で確認。
OpenWrtのリリース版については、22.03シリーズからサポートされる。
作業時の色々
元々はSwitch-M8eG PN28080Kよりも先にSwitch-M24eG PN28240Kを確保して作業を進めていたものの、そちらにはOpenWrtのrealtek target(旧rtl838x target)において未だサポートが存在しないRTL8218FBが搭載されており、TP/SFPのコンボポートを正常に動作させる(特にSFP側)にはドライバにRTL8218FBサポートを追加する必要があることから、その作業が不要なSwitch-M8eG PN28080Kを先にOpenWrtに投げ込んだ。
前項の通り当初はSwitch-M24eG PN28240Kを先に作業していたものの、後からSwitch-M8eG PN28080Kも確保して作業を開始し、両機種においてハードウェアに共通点がある程度存在することから、構成情報を記述するDeviceTreeにおいても共通使用するファイルを用意することとした。この共通ファイルについては何度かOpenWrtのチームメンバーなどとpatchを投げ込んだ際にやり取りして改善を重ね、最初に投げ込んでからそれなりに経過してようやくマージされた
色々
前述の通り、最初に投げ込んでから色々あった結果マージまでにだいぶ時間を要したものの、なんとかマージされ一安心。
家庭向けルータではもちろんのこと、安価帯のスイッチングハブでは搭載しないことが多いシリアルコンソールのポートを搭載していることからネットワークが不通となっても設定が行うことができる為、このSwitch-M*eG PN28xx0Kシリーズは個人的にお気に入りだったりします。ただ、Flash内にファイルシステムが存在しているなどして扱いに若干面倒な点はあるけれども。
シリーズ内の16, 24, 48ポートの他機種は現在作業中であり、おおよそはSFPポートを含めて動作する状態まで到達しています。が、realtek targetのKernelバージョン引き揚げ作業やその他の関係上、それぞれのサポートを投げ込むにはまだしばらく掛かります。